有識者対談「スポーツを通じた社会課題解決の可能性」

対談内容

登壇者:
井上康生氏/柔道家・パリオリンピック日本代表選手団副団長
木村弘毅氏/公益社団法人経済同友会 スポーツとアートによる社会の再生委員会委員長 株式会社MIXI 代表取締役社長 上級執行役員CEO
石井美穂/慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科リサーチャー

対談趣旨

スポーツにおける、する・支えるの観点から、現代社会が抱える様々な社会課題に関して、スポーツとビジネスの役割を紐解くべく、先進的な取り組みをされているスペシャルなゲストをお招きして対談を行いました。

スポーツとソリダリティ

IOC オリンピックアジェンダ2020+5においてもソリダリティは重要なテーマとされています。
世界的にはIOC難民選手団の活動支援が有名ですが、難民支援に限らず災害地域における活動等、困難な状況にある方たちに対するサポートとして多様な活動が行われています。
2024年年初に発生した、能登地震のための支援活動について、井上様にご紹介いただきます。

能登支援活動について

井上様
現役時代から現代まで、本当に多くの方々から応援していただき、サポートされてここまで来た。
自分自身の存在意義を考えた上で、役に立てることを実施した。
具体的には、炊き出しの手伝い、柔道を通じた子供たちとの交流など、現地に行ってみて、改めて被害の大きさを感じ、復旧には時間がかかると痛感している。
今後も自分たちがやっていることを継続できるよう努力したい。
その中で、丁寧に想いを持ちながら、協力しながら進めていくことが大事だと考えている。
また、JOCのパリオリンピックの副団長としては、勝負の世界だけではなく、オリンピックやスポーツの様々な価値を発信・活用し社会と繋がる活動を検討している。

木村様
経済界としては、物資支援や義援金提供を行なっているが、それだけでは限界がある。
物質ではなく、人を勇気づけることは、アスリートだからこそ実現できることであって、企業だけではなかなか成し得ない。

石井
このような活動は、スポーツが人を繋げていく、人々の繋がりを密にする大きな力を持っているということを示すものであると考えられる。

JUDOsの活動について

井上様
スポーツを通じて、人生を豊かにしていく一つのポイントとして、生きがいややりがいをみつけるきっかけや出会いとなった。
自分自身は、勝負の世界で勝ったり負けたりすること、目標設定の重要性、いろんなことを学ばさせてもらった。
私は生きる力を柔道から学び養ったと考えている。
これを社会に還元することを目的として、スポーツが持ってる多様な価値を広めるための多様な取り組みを行っている。

mIXIの活動について

木村様
私達は企業としてプロスポーツチームを持っている。
チームを強化、普及し、多くの人に届けて楽しんでもらうことが、私達の務めである。
MIXIと企業が一番期待しているアウトカムは、コミュニケーション。
昨今コミュニケーションがいろいろ分断されている中で、スポーツが中心にあって、みんなで一喜一憂する空間や機会を提供することが企業の務めだと思っている。
スポーツの価値を届けていきたいと考えている。

スポーツのもつ価値について

石井
我々の研究が、スポーツを、社会課題解決のためのプラットフォームでありツールであるとした背景には、スポーツを通じて可能となるコミュニケーションや共感の力があります。

井上様
スポーツが持ってる多様な価値というものの中の一つとしては、コミュニケーションの力がある。
スポーツは対人で競うことから、人と人との競争があり、人と人との繋がりがあったりする中で様々なことが生まれてくる。
人間が生きていく中で、人と人との繋がり、このコミュニケーションというものは絶対欠かせないもの。コミュニケーションがあるからこそ、人それぞれの価値観の面白さや楽しさがある。それをスポーツが教えてくれるということを、私は人生を通じて学んだ。そんな価値を送り届けられるスポーツ界になればいいと感じている。

木村様
コミュニケーションのクオリティが上がることは、人生自体のクオリティが上がること。その中でスポーツの提供できる感動や共感は変えがたい。
多くの人が接触できるような機会を提供していくべきで、そのため協調して考えていかなければならない。

実業界から見たスポーツの可能性について

石井
経済同友会様が提唱されているところの、共助資本主義では、企業のパーパスや共感を起点としたコミュニケーションを重要なファクターとして捉えていらっしゃるが、実業界からみた、スポーツの可能性についてお聞かせいただきたい。

木村様
日本が、高齢化社会先進国と呼ばれている中で、今あるものを活用し、助け合いながらクオリティを上げていく必要がある。
その中で、日本の思想もったいないが、イノベーションの母だと思っている。

例えば、遊休のスポーツ施設について、高校生・中小学生が一緒になって使える等。
同友会のスポーツとアートの委員会では、もったいない精神で今あるものをいろいろ有効活用していくことで、できることが多くあるのではと考えている。

石井
部活動改革などが進められる中で、経済的に裕福、余裕がないとスポーツに触れ合うことが難しくなってしまうという課題がある。
スポーツを通じて、ともに助け合いながら新たなきっかけを得ることで成長が促されるのではないか。

井上様
何が課題で、その課題をもとにどのようにアクションプランに移していくかを、突き詰めていくことが大事だと感じる。
スポーツとして捉えてきた強化のプロセスにも通じるものである。

石井
どういった課題があるのか、どのような解決策が見出せるのかについて、アスリートやスポーツの領域に関わっている方だけではなくて社会全体で考えていくべきこと。
そこにはコミュニケーションが必要になっていく。
みんなで問題を解決していく、共助のための仕組み作りが必要となるのではないか。

木村様
横の繋がりが大切。
縦割り行政や官民の分断をいかに解消するかが重要となると考えている。
縦割りをいかに解消するか、あるいは官民がいかに連携していくか、こういったところがこれからの日本のテーマとなるだろう。

社会課題解決のための人のつながりや共助のあり方

石井
社会課題のために、人々が繋がって共助し合うあり方として、どういう形がありうるのか。
木村様にインタビューさせていただいた時に、アウトカムとアウトプットのお話になった。
アスリート自身が持つ情報発信力をアウトプットと捉えたとき、アスリートのアウトプットは、社会課題を解決するために、非常に大きなパワーになる。
ただ一方で、それだけでは問題の根本的な解決には繋がらない。ただし、企業と共助しながらアウトカムを最大化できるのではないかと考えている。
アスリートの社会課題解決のための取り組みが、一過性のものではなくて継続的なものになるためには、どういった支援、連帯・連携が必要なのか。

井上様
これから先、大事になってくるのが、対話と共創、コミュニケーションをうまく図っていきながら、共に創っていく=共創が非常に重要だと感じている。
いかに横の繋がりを持った上で一つの形を作っていくかが非常に重要な部分であると思っている。
我々アスリートはスポーツを追求していきながら、アスリートだけではなく指導者もスポーツをする関係者全てが、今お話をされたようなことをしっかりと理解して、知識や意識を高めていくことが重要。

スポーツ関係だけではなく、いろんな企業の方々や分野の方と連携することで、発展させていけることがたくさんある。繋がりを持った上で、より一層スポーツの発展に繋げていけることが非常に大事になる。

木村様
アウトプットだけではなく、アウトカムが重要。
技術が発展することで、アイディアさえあれば解決できるようなものもいろいろある。
アスリートに憧れるだけではなく、日々、自分たちの関わっている人たちの頑張っている姿を知ることができるようになるだけでも変わる。

石井
企業とアスリートがともに社会課題の解決に取り組んでいくというキーワードをいただいたが、アスリートの観点から井上様にご意見をいただきたい。

井上様
スポーツの教育的な観点についての意識が高まっている。
特に野球道やサッカー道といった言葉が生まれてきている。
スポーツの価値は、ただ単に楽しむだけ、勝負だけではない世界があることを意味しているとと思うところがある。
私は柔道の究極の目的は、最終的には、いかに社会に繋がりを持って社会に還元できるか。自分たちの存在意義を考えた上で実行していくことが非常に大事だと思っている。
精力善用自他共栄という言葉は、まさしくそれを意味していて、自分自身でできることをこれからも追求はしていきたい。
しかしながらスポーツをより一層発展させていくには、ソフト面だけではなく、ハード面もちゃんと整えて行く必要がある。そういう部分においては、いろんな企業様のお力を借りたりする中で総合的に形作りができていければ良いと考えている。しっかりと対話をしていきながら、ともに共創できる、同じ志を持っていただく方々をチームとして、一緒に仕事ができていけたら最高だと思っている。

石井
私達の研究は、元々インターネットで全てのものを繋げていくというのがテーマ。
アスリートの方たちの想いを企業の方たちと繋ぐ、対話をするための場を作るというのも我々が担うべき役割だと感じた。

木村様
スポーツの精神性は、企業人を育てていくという意味でも非常に重要。スポーツを通じて得られる、精神性、自分自身の成長、あるいは他者を慮ることができる。
尊重の気持ちなどをきちんと届けていけることが重要になるのではないか。

石井
インターネットが普及してコミュニケーション簡単に取れるようになった一方で、コミュニケーションの密度が下がっている、深いコミュニケーションができなくなってしまってるという課題。スポーツやスポーツを通じた共感や「道」を通じて深く根付いていくものにより共感する力が養われていく。
そのような人たちが育っていくことによって、豊かな社会に向かっていけば良い。

まとめ

井上様

私は、柔道を通じて生きる力を学んだ。
これからスポーツと柔道というものを通じて、自分の人生を豊かにしたり、自分自身が極めることで、他者や社会に少しでも還元できる何かの要素をが生まれてくることが、スポーツや柔道の究極の目的だと考えている。
これをやらなければ、これじゃなきゃ駄目ということではなく、それぞれが歩んだ道の中で、それを極めて、それが形になっていけば素晴らしい。

木村様
経済人なので絶対に目を背けられない問題が、財源の問題。
どこの団体も財源がない、人がいないという課題がある。財源確保のために、国の予算を取っていくためにも、スポーツの重要性、単純に競技だけではなくて、エンターテイメントの側面、あるいは健康の側面あるいは観光の側面など、様々なものにどれだけ有益であるかを訴えかけていくことが求められる。

企業スポーツとしても、ビジネスとしても、日本国内で回っていくような規制緩和、あるいは新しいビジネスの構築にきちんと向き合っていくことが重要だと思っている。

以上

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